折り重なるヴェール。

 だんだんレビューを書く頻度を上げて行こうかと。今まで書いてないものをもう一度読む暇はないかもしれないけど。というわけで、ユージニア / 恩田陸[amazon.co.jp]を読んでみました。

 巧みな比喩が随所にちりばめられた文章に、ときには共感を覚え、ときには驚愕させられる。そうした比喩を生み出す作者・恩田陸の視線の鋭さの上に、20年前に犯人とされる男の自殺で終わりを告げたかに見えた、ある一家毒殺事件について語られる様々な視点からの記憶が、真相への想像力をかき立て、ストーリーから目をそらさせない。

 事件のさなか見つけられた、ユージニアへ捧げられた謎めいた詩。唯一生き残った盲目の美しい少女。誰なのか分からない、私、に向かって語られる記憶。事件から10年後に書かれた、ある本の存在。通り過ぎる天使と潮騒。夏の終わり。果たして真相は…。

 幾重にも重ねられた薄いヴェールのような時間の流れに深く覆い隠されたものに、章ごとに視点をがらりと変えながら徐々に迫っていく。その過程に充ち満ちた緊張感が、読み手を捉えて放さない。そして、同じ事象を見ていながらも違う形で表される事実の群れが導く真実とは何だろうか、それを自分なりに考えるのも、この本の楽しみ方の一つだと思う。