物語を。

 これは、2月頭の試験直前に本屋で見かけ、サブタイトル(どうやらシリーズタイトルらしい…騙された!)と装丁の色合いに手が伸びたついでに何を思ったか勢いで買ってしまった本。試験直前に本屋なんて寄るなよ、とお思いの方もおられるでしょうが、これと相前後してマンガを11冊買ってこっちは試験前に読み終わり、あまつさえ試験ケイゾク中に通しで2回目も読み終わっていたことを付言しておきます。深層意識への道 / 河合隼雄[amazon.co.jp]。

 人は誰でも自分の物語を生きている。そのことを筆者・河合隼雄は、自身の物語とその中で遭遇した本の数々──心理学関係の本はもちろんだが、文芸作品、娯楽小説、児童文学、仏教教典、とにかくなんでもあり──を語りながら提示している。

 そう、語りながらと言った通り、この本は講演の様子を書き起こしたものである。だから、堅さがない。そして、目の前の聴衆を飽きさせないために、示唆に富んだ様々なテーマが盛り込まれている。人を治せない心理学と、人に関わる心理学について。人の心にとっての物語とは。西洋的な物語と心、東洋的な物語と心。色々な世界の色々な人との会話、エピソードなどなど。…もちろん、彼の言うすべてを鵜呑みにしては意味が無い。その物語は他人のものなのだから。

 本を読もう。フィクションも、ノンフィクションも、易しいものも、難しいものも、一度読んだあの本も、読みかけで放り出してしまったあの本も。そう思わせてくれたのが、この本の一番の収穫。