4分の3拍子。

 最近は長編にチャレンジする時間的+精神的余裕がないので、どうしても短編集か薄い文庫に偏りがち。そんな中で、星雲賞のネームバリューに惹かれて、まだ読んだことのなかった作者の中編集を一冊。老ヴォールの惑星 / 小川一水[amazon.co.jp]

 決してハードではないが、これこそがスタンダード。SFが思考実験の繰り返しで成り立っているということを思い出させてくれる作品集。

 思考と知性と人間性(1つ人間が主体ではない話が入っているので、これは「知的生命体としての性質」とでもいうべきだろうか)、それらと外部条件の相互作用を描くという、透徹したテーマが感じられる。このテーマ自体はSFとして描かれる必要性を持っていないが、SFが純粋培養の実験装置のように外部条件の方を先鋭化させることで、主題への回答の陰影を深める効果をもたらしている。はっきりいって、この作者にとってSFは手段なのだ。そして手段であるがゆえにスタンダード。サイエンスは知への手段なのだから、サイエンス・フィクションもまた然りというわけ。

 この作品集に含まれる4つの物語のうち、主役が人間であるものが3つ。異星の存在を扱ったものが3つ。「食事」が重要な意味をもつものが3つ。…というように、内包する3つを変えながら色々な織り目をなす3/4の共通性が1冊としての一体感を生み、その裏返しの1/4の特殊性が個々の話を引立てている、そういう意味で、バランスのとれた美味しい1冊。