エニグマティック・フェノミナ

 最近、タイピングしていて、妙な現象が多いことに気付いた。

 ローマ字入力なのに濁点を付け忘れることがあるのだ。どういうことかというと、例えば「スタンダード」と入力しようとして、そして入力したつもりで、変換のためにスペースバーを押した瞬間、「すたんだーと」と入っている、というような。

 かな入力であればそれはわかる。かな入力において、濁点・半濁点は別に付けるものだからだ。しかし、ローマ字入力において「が」と「か」、「ぺ」と「へ」のような点や丸がないだけの打ち間違いは、本来起こりえない、はず。子音が違うから。

 最初に挙げた「スタンダード」にしても、「ダード」部分は「da-do」なのだから、「da」で「D」キーに乗った中指は「do」を打ち終わるまで動かなくてよいはずである。それがなぜ「すたんだーと」になってしまうのか。以下は仮説だが、こういうことではないだろうか。

 「スタンダード」と入力したいと思った瞬間、脳は音(もしくは音+映像)として「スタンダード(すたんだーど)」を認識する。その時点においてはまだ、「sutanda-do」というローマ字表記に分解されておらず、「『スタンダード(すたんだーど)』と入力する」という、日本語(つまり母語だ)の命令が発せられる。そして、その命令に従って指はタイプするのだが、ブラインドタッチを習得している場合、今から押されるキーが何のキーかということは意識されない。

 つまり、無意識のうちに、「『ど』は『と』に濁点を付けたもの」という、かな表記の習得期にありがちな刷り込みに従って、指が動いてしまったのではないか。単語を想起する時点での無意識と、キーボードの上で指を踊らせる段階での無意識。これらの無意識の繋がりが「スタンダード」から「すたんだーと」を生じさせたのだと考えられる。

 また、この現象が途中の「ダ」で発生しないのは、その「途中であること」こそが重要なのではないか。日本語の表記法則の無意識と、それとは別のローマ字の表記法則の無意識のせめぎあいの結果、「ダ」においては単語中の連続性に引きずられ、きちんと濁点の付いた状態で入力されるが、「ド」においては「最後に点をつける」という感覚が上回り、「と」が入ってしまうことがあるのだろう。

 …どうだろうか?

 要するに何がいいたいかというと、HHKB Professional2はタイピングしやすい、ってことなのだが。