それぞれの回想、それぞれの景色。

『ブラザー・サン シスター・ムーン/恩田陸』[amazon.co.jp]
 「いつも魅力的で肌触りの心地よい風呂敷を見せてくれるが、畳み方が大雑把なのが玉に瑕」という評価の多い著者が、おそらくラストシーンから逆算して描いたのではと思わせる一冊。もしくは、あらかじめ畳み終えていた美しい風呂敷を見せてくれたのか。
 同じ高校を卒業し、学部こそ違うものの同じ大学へ進学し、そして別々に大人になった3人の男女が、それぞれの学生時代を回想する、もしくは描写される構成になっていて、大きなストーリーが展開するわけではない。けれども、一人一人の奥行きある人物造形が、不思議な味わいを残してくれる。
 3人が高校時代に出会った意味は何だったのか、それとも意味なんて思い出としての価値しか持たないのか。今のように気軽にレンタルできるDVDのない時代、名画座で見た映画「ブラザー・サン シスター・ムーン」に彼らが感じたものが三者三様に違ったように、この小説の捉え方にも読者それぞれの志向が反映されるだろう。