ゼミ資料 vol.1

 せっかく書いたので載っけてみるテスト。主に、Maly Kaldor, 'New & Old Wars'のChapter 1(と2も少し)の要約だが、訳及び要約の時点で自分の考えが多分に入っていると思うので突っ込み歓迎。お手柔らかに頼みます。

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1.「古い戦争」と「新しい戦争」
 両者の違いは、大まかに言って戦争の目的・方法論・資金調達法の違いである。
a.目的──どちらもidentityに関わるという点では同じ。
 old identity:国益(≒君主/主権者の意思)や国家の将来設計*1
 new identity:ノスタルジックに理想化された過去(排他的、断片的性格を持つ)
  →そうしたidentityは、グローバル化の進展によって、断片化した共同体(local and national)が相互に接続可能(global and transnational)な状態となることによって、しばしば”離散した人々の心裡的ネットワーク”を通じて拡大していく。

b.方法論
 新しい戦争は領土の軍事的獲得を目指さず、人口の政治的統制(identityの異なるものの排除)を図る。戦闘は主にゲリラ戦*2で、出来るだけ戦闘は避ける。当事者の一方が正規の軍隊である場合、空爆や遠距離攻撃*3が行われることが多い。その結果、難民や民間人の死者が劇的に増加する。

c.資金調達法
 戦争経済のグローバル化、相互依存関係の進展。国家間経済の相互依存関係はもとより、戦闘集団(正規軍からテロ組織、犯罪組織まで様々)ごとに略奪やブラックマーケットへの参加、組織外部からの資金援助によって活動している。

2.グーロバリゼーションと「新しい戦争」
 グローバリゼーションは、80年代からの情報技術の発展による政治・経済・軍事etc.の領域に於ける相互接続性の向上と捉えることができ、統合/断片化・均質化/分散化・グローバル化/ローカル化といった双面的な影響を及ぼしている。この傾向の分水嶺はやはり冷戦の終結*4で、世界のglobal classとlocal classへの分化を加速させた。
 また、軍事面での国際化と国際的規範の展開により、unilateralな軍事行動が行いにくくなったのに加え、local classに属する国家に於いては国家財政の悪化とともに犯罪が日常化し、暴力の私物化が起きている。そうした主権国家間の関係という枠組みの変化(≒より一層の国際化)とその国の政府の政治的正当性の減少(反政府勢力や大規模な犯罪組織の出現等の権力の分散)に伴い、国家の内部は安定した市民の社会で、争いは国家の外部もしくは周辺で行われるという、主権国家体制の成立がもたらした近代の戦争概念に於ける内と外の区別が崩壊し、国家同士(もしくは同盟・圏同士)の戦争という戦争概念は過去のものとなった。
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*1:愛国心や宗教的道義などは動員の「手段」として用いられていた。

*2:ただし、従来のゲリラ戦が"hearts and mind"と言って人心の掌握、組織的拡大を目指したのに対し、新しい戦争のゲリラ戦は"fear and hatred"と言って自分たちと異なる人間の排除を指向する。

*3:参考記事:ボーイング社が無人爆撃機の実験に成功[cnn.co.jp]

*4:戦争に対する認識が変化する点でもある。