Giornata 1.

 ばたん、とベッドへ倒れ込んだはずなのになぜか5時半に目が覚める。まだ外は真っ暗。とりあえず昨日の分の写真を整理したりしながら朝食の始まる7時を待っていると、その7時ちょうどに教会の鐘が鳴る。改めてイタリアに来たことを実感。それより少し先行して夜が明けたのか、だんだんと明るくなってきた。第一日目は快晴。幸先のいいスタート。
 ホテルの朝食はビュッフェ形式で、クロワッサンなどのパンやチーズ、ハムが2種類、フルーツ、ヨーグルト、シリアルなどなど…という、いたって普通の朝食。まあこんなものか…と思っていると、そこここで日本語が。団体ツアーの途中なのか、ある程度固まって食べていた。会話が聞き取れるって安心…。食べ終わった後は、適当に身支度を整え、さて出発…と思ったら、部屋に置いて行く鞄の鍵がない。ないない。ないー…あ、あった。ベッドの照明の上に置いたんだった。と、これで30分近くロスしたものの、9時半くらいにはホテルを出発。
 ホテルを出たあと進路を東に取っていくらもしないうちに、通りの建物の間からあのオレンジ色の円蓋が見えてくる。(fig.1)それを見ながらサンタ・マリア・デル・フィオーレ広場に出ると、まず洗礼堂が目に入り、その後ろにドゥオモと鐘楼が青空に向かって立っている。 …写真で見た通りだ、などと益体もないことを考えつつ、クーポラを間近で見ようとジョットの鐘楼の方向へ回り込む(fig.2)と、鐘楼は既に開いていたので登ってみることに。初日の朝から脚を酷使して手に入れた眺めは、それだけで満足してしまえそうなほどの見応え。(fig.3,4,5)…実際満足してしまったのか、肝心のドゥオモに入るのを忘れ、結局ドゥオモとクーポラは三日目に行くことに…。
 鐘楼を降りて、そこから街のメインストリートを観察しながら南下すると、突然視界が開け、シニョリーア広場とヴェッキオ宮*1が姿を現す。観光客の向かう先を(自分も観光客なのは棚上げしつつ…)見ると、ミケランジェロダヴィデ像(のコピー)が市庁舎の入り口を守るように立っていた。(fig.6)その横には彫像の立ち並ぶランツィのロッジア(柱廊)が。ああ…ここか(fig.7)、という独り言はさておき、そんな感じでひとしきり広場を眺めた後、行列が出来ていたら予定を再考する必要が出てくるのでウフィツィ美術館の様子を見に行くと、行列の出来る気配すらもなかった。ウフィツィだけでなく、結局この旅行中は一度も*2並ばなかった。美術館の柱廊*3(fig.8)をポメラニアン(fig.9)に吠えられたりしながら(シャッターを押した瞬間に吠えられた)ゆっくり一周してから美術館の中へ。
 ウフィツィの中については…あまり書いても普通の観光ガイドみたいだから数点だけ。
 絵は実物を見なければ、というのを本当に感じたのは今日が初めてだった。ここにあるボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」と「春」が、これまで写真や映像で見飽きてしまうほど見てきたものだからこそ、そう感じさせてくれたのかもしれない。ヴィーナスの髪の輝きはここにしかないのだし、春の女神達の視線を直に感じることも他ではできない。他にはロッソ・フィオレンティーノの「奏楽の天使(参考[wga.hu])」の優しげな眼差しが印象的だった。もうひとつ、ガイドなんかではあまり触れられないがウフィツィの廊下の壁面上方には、歴代のローマ教皇や各地の君主達の肖像画がそれこそ延々と飾られている。その中に、場所は多少離れているものの、ローマ教皇アレクサンデル6世とヴァレンティーノ公爵チェーザレ・ボルジアの「あの」ボルジア家の親子の肖像が確認できた。
 ウフィツィを出てみると、軽く2時間以上経っていることに気づく。…これでも細部はもったいないと思いつつ端折ったんだけど…。そして朝から脚を使ったせいか、13時過ぎの時点で空腹と疲労がピーク近くまで来ていた。でもそこら辺のバールにひょいっと入る勇気はまだない──実際は世界的な観光地なんだから簡単な英語は通じるし、相手も理解しようとしてくれるはずなんだけど──ので、道ばたで軽く休憩した後、空腹を抱えたままふらふらとアルノ河畔をヴェッキオ橋とは(これまたなぜか)反対へ歩き出す。
 そのように彷徨い始めた…と言ってもそこは初日、地図はこまめに確認してるんだけど、ふらふらと「これがアルノ川か…茶色い川だなあ」(fig.10)などと罰当たりな感想を懐きつつ街並を眺めていると、一際立派な建物に出会う。「BIBLIOTECA NAZIONALE CENTORALE」(fig.11)おお、国立中央図書館。うちの学校の図書館も中々だけど、ここまでの雰囲気はないなあ。ちなみにイタリア語では、Bibliotecaが図書館でLibreriaが本屋。
 図書館の前から少し街中へ入ると、今度はサンタ・クローチェ教会の前に出た。(fig.12)この教会は、ミケランジェロロッシーニの墓があることで有名…なんだけど、お腹が空いている状態でこれ以上寒い場所に入りたくないという意識が働いてスルー。今思うと惜しいことをした。その教会前の広場では、EU域内の各国からやってきた出店が並ぶ市場が立っていて、当然簡単な食べ物も売っているんだけど…これまたスルー。正常な思考が働いてないな。
 そこから少し北上すると、チョンピ広場のロッジアに出る。この辺りにくると観光客の姿はほとんどなく、素のフィレンツェを垣間みることができる。そう、素のフィレンツェ…は落書きが多い。(fig.13)さすがに観光客が通るメインストリートは整備されてキレイなものなんだけど、一歩裏通りに入ると落書きが目につき、もう一歩入ると落書きだらけ…。どこの国の若者もやることは変わらないのね。
 チョンピ広場まで来てしまうとガイドブックの地図も端の方が近くなってくるので、いっそのこと一度ホテルに戻ろうかと思い、広場の前から街の中心部に向かって歩いていると…スーパーがあるじゃないですか。食料確保ー……コーラとサンドイッチを購入。だいたい街中の約3分の1の値段。こうして手に入れた食料を持ってホテルに戻り、遅めの昼食を兼ねてひとやすみ。
 食事を済ませてようやく人心地がつき次の行動を起こす気になったので、街の地理を把握するためにもう少しチェントロを散策(fig.14)した後、展望台として有名なミケランジェロ広場*4で夕暮れのフィレンツェを眺めようと、駅前のバス乗り場へ。日曜日にスタジアムへ行くときもバスに乗る予定なので、とりあえず少しお得な1時間券4枚分になる切符を買って、バスの番号を確認しつつ乗り込み、検札機に切符を通して空いている席に着く…が、ちょうど停留所へ来たところだったのか発車時間までは間があり、走り出してからは渋滞にも少し巻き込まれて、ミケランジェロ広場についた頃にはほとんど日が沈んでしまっていた。…それでも高台から見るオレンジ色の街並(fig.15)は素晴らしく、日没後にやってくる寒さの中、しばらく眺めていた。
 そうはいうものの、真っ暗にはなってしまわないうちにミケランジェロ広場を離れて川岸まで下り、今度はアルノ川の左岸(南岸)を、夕暮れの群青色の中で昼間とは違った表情を見せる国立図書館ウフィツィ美術館(fig.16)を見ながらヴェッキオ橋の方へ歩く。そして、ヴェッキオ橋に到着。ナターレ(クリスマス)に向けたイルミネーションと、軒を連ねる貴金属店のショーウィンドウの明るさが、橋の上を華やかな雰囲気に包んでいた。(fig.17)貴金属を使ったアクセサリーはもちろん見ていて凄いな(量も凄いし)とは思うけど、いまいち縁がないものなので、むしろ動物・楽器やその他様々なものの銀細工のオブジェが並んでいる店が面白かった。(fig.18)
 そして、夜のヴェッキオ橋(fig.19)を撮るために一つ下流のサンタ・トリニタ橋の方へ回った後、そのままクリスマス気分の深まりつつあるフィレンツェの街(fig.20)を散歩しながらホテルに帰還。初日としてはなかなか…かな。脚は疲れたけど。
(LastUpdate:2005/12/26 13:36)

*1:現在も市庁舎として使用中なので、一般人が入れない区域あり。

*2:夏場の観光シーズンは美術館ひとつで2時間待ちとか、予約しないと入場出来ないとか…。

*3:太い柱の中ほどをくり抜いてルネサンス期の有名人の像が配置されている。マキアヴェッリ(fig.21)とグイッチャルディーニもいた。

*4:ここにもダヴィデ像のコピーが置かれているためそう呼ばれるようになった。