Giornata 4.

 本日も朝から曇り。…でもずっと曇りな訳じゃなくて、たまに晴れ間も見える感じ。昼からはサッカー観戦なので、午前中は最後のフィレンツェ観光。そこで、昨日最後に行って入れなかったピッティ宮の銀器博物館とボーボリ庭園に行こうと思い立ち、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会(fig.1)の前からカライア橋の方へ抜けて、そこからアルノ川(fig.2)を渡り、橋を渡ってすぐのところにあるサンタ・マリア・デル・カルミネ教会の前や、昨日の夜は暗くてよく見えなかったサン・スピリト教会とその前の広場に出ている市場の脇を通って、今度は奥の方からピッティ広場へ。(fig.3)
 銀器博物館には、その名の通りに銀器が展示されているだけではなく、メディチ家の所蔵していた宝物が多く展示されていて、むしろ宝物博物館と言った方が良いのではないかという感じ。あきれるほど細かくて幾何学的な象牙細工のオブジェや絢爛豪華な十字架の祭壇、他には宝石を使ったアクセサリー・オブジェなどなど。中でも最後に回った部屋にあった、イル・マニーフィコが実際に使ったとさせる食器を実際に見られたのが感慨深かった。それだけでも貴重な古代ローマの杯に金細工の加工を施した上、「LAVRMED(ロレンツォ・デ・メディチラテン語略記)」と刻ませてある。塩野七生をして「彼にしか出来なかったこと」と書かしめた*1ものが見られた、そしてそれが想像以上に美しい(特にアメジストの器が良かった)ものであったことに満足しつつ銀器博物館を後にした。
 銀器博物館とボーボリ庭園は共通入場券だったので、そのままピッティ宮の後背に広がる庭園へ。…出てみるとそこはオベリスクが中心に聳える円形劇場風の広場(fig.4)で、芝生の緑が目に心地よかっ…あ、猫がいる。と思ってカメラを構えると…おお、よって来たー。(movie.1)そしてすりすり。なでなで。(fig.5,6,7,8,9)こっちが立ち上がって歩こうとすると、猫も立ち上がってトコトコ先導してくれたり。(movie.2)…庭園を見るつもりだった時間を削って猫と遊んでしまった。さらに通りがかったアメリカ人(かもしれない)の人に「Now, you're friends!」と笑われてしまいましたよ。
 後ろ髪を引かれつつ、さっきの猫と別れてボーボリ庭園を回ってみると、いかにも西洋の庭園だな、という感じ。(fig.10,11)幾何学的に整備されて噴水(fig.12)やオブジェが配置され、庭園の奥(fig.13)からはすぐにトスカーナの郊外が広がっていて、眺望を楽しめる。(fig.14)もちろん街の方の眺めも。…しっかし、最初の1匹だけかと思ってたら、そこ(fig.15)かしこに(fig.16)猫が(fig.17)いるんですけど。見かけただけで10匹。でも触らせてくれるのは入り口近くの数匹だけの様子…とまあこんな感じで庭園を一通り見終わると正午を回っていたので、少し急ぎ気味にピッティ宮を出て、歩きながらピザを食べつつ一旦ホテルへ戻る。
 ホテルに戻って午前中に撮った分の写真をPowerBookに移し、持ち歩く荷物はできるだけ軽くして、いざスタジアムへ。ガイドによるとS.M.N駅前から試合の日限定で52番のバスが出ているとのことなので、52番が止まるバス停を探し出して待つこと10分。さっそく乗り込んで座る。バスの窓からスタジアムのライトが見えて二つ目くらいのバス停でみんな降りたので、その流れに乗って降りる。これが大体試合開始1時間と20分前。行きはよいよい。…帰りはまたあとのお話。
 そのまま流れに乗ってスタジアム(fig.18)の方に行くと、スタジアム前の通りには黒山の人だかりが。今日はフィオレンティーナユヴェントスの因縁の対決だからなのか、とにかく人が多い。(fig.19)旗振りながら応援歌を歌ってる集団もいるし、近くのバールの商品棚は軒並み空になっていた。そして予約しておいたチケットの受け取り場所が分からない罠。途中グッズショップでマフラーを買ったりしながらふらふらと歩いた末、入場整理をしている人に聞くと、通りの逆の端だと言われる。おーい。それでもまあなんとかチケットを受け取って、そこから一番近い入口に入ろうとしたら、そのチケットの入り口はスタジアムを挟んで正反対だ、と止められる。…おーい。
 仕方なく言われるままに歩いて行くと、雨粒が落ち始める。一応折り畳み傘は持って来てるけど、観戦中に差すのもあれなので我慢がまん。そうしてようやく入口に着いた…のはいいけど、狭い入口へ向かってもの凄い混雑が。まだ試合開始まで45分はあると思って楽観視していたのに。周りは皆でかいイタリア人ばっかり。気分はおしくらまんじゅう。ここらへんから安めの席を取ったことへの後悔が少しずつ…。
 何とかおしくらまんじゅうを抜けてスタジアムの中に入り、自分の席を探すと、見事に通路から遠くて入りにくい地点に。一応「とおりまーす」と声を掛けつつ辿り着いて座ると案の定、「何だこの東洋人は」という周りの空気が。さらにここまで来てやっとメインスタンドとバックスタンドの違いが分かる。こっちは屋根がない。周りのイタリア人はみんな雨合羽装備中。…ぬかった。さらにちょっと席も狭いかも。言うまでもなく客層は違うし。まあ、とにもかくにも席に落ち着いて、やっとピッチに目を…って近いなー。(fig.20,21)流石はサッカー専用スタジアム。かなり感動。何を隠そう生サッカーは初めてなのした。
 席に着いてしばらくすると、周りの席もだんだんと埋まってきて満員の様相を呈してきた。さらに、今まで降っていた小雨が止んで、晴れ間が出ると同時にクルヴァ*2の向こう側に虹が。(fig.22)すげー、ってさっきから興奮しっぱなしだな自分。開始15分前には練習中だった選手達も引き上げて、会場は選手の入場を待つだけというそわそわしたような雰囲気に。そして選手入場。その瞬間、クルヴァがスミレ色の縁取りを施された王冠に変わる。(fig.23)比喩ではなく本当に変わる。応援歌がスタジアムを包む。場内放送が選手の名前だけを読み上げ、観客が姓を叫ぶ。やっぱり目下得点王のトーニが一番盛り上がった。そんな嫌が応にも気分が高揚する空気の中、ついに試合開始。
 …おそらく試合経過をつらつら読んでも楽しくない(書いてても楽しくない)ので、最初に簡単に書いておくと、結果は1-2(前半1-1)で地元フィオレンティーナの負け。入って当然のシュートが三本も枠に弾かれたりと運のなかったヴィオラ*3が終盤に失点してしまうという、まあありがちと言えばありがちな展開。メンバー表から感じるほどの力の差はなかった気がするけど、勝ったユーヴェがセリエAで勝ち点10差(=3勝以上の差)をつける独走状態(2位集団にヴィオラもいる)ということを考えると、こういう試合で勝ちを拾えるかどうかが決定的な差なのかとも思う。動きが目立っていたと個人的に思ったのは、トーニでもフィオーレでもネドヴェドでもヴィエイラでもなく、イブラヒモビッチ。193cmの巨体にも関わらず、動きが軽くて柔らかい。空きスペースに胸トラップで流れるようなパスを出された日には思わず拍手しそうになりましたよ。したら周りの人にコロされるのでしませんでしたが。そりゃユーヴェのエースストライカーになるわ。来年のワールドカップに出る若手FWだと、イタリアのジラルディーノスウェーデンイブラヒモビッチが双璧だと思いますですよ。
 そしてやっぱり印象に残ったのは、現地のサポーターの熱さ。確かにバックスタンド側に来ると東洋人一人っきりで緊張するかもしれないが、熱さを感じて楽しみたいなら逆にお勧めかもしれない。味方選手が少しでもいいプレーをすれば惜しみない拍手と声援が送られるのに対して、ユーヴェの選手がプレーしているときのブーイングは物凄い。前を通っただけでもブーイング。ユヴェンティーノは帰れ、ビアンコネロ*4は死ね(超意訳)みたいな歌を歌ったりもする。フィオレンティーナが得点を決めたときには飛び上がって喜びを爆発させて地響きを起こすし、逆に決められたときは時間が止まったかのように無反応。ちょっと怖い。さらに、審判の判定に不満があるときは両手を前に突き出して飛び出さんばかりの猛抗議。(fig.24)微妙なオフサイドを宣告した副審に対してはペットボトルが投げ入れられる始末。…この熱に触れて、ますますサッカーが好きになった気がする。Forza! Viola!!
 敗戦の醸し出すちょっと沈んだムード(fig.25)が漂う中、帰宅の途につくことに。既に空は真っ暗だけど時間的には結構早くて17時過ぎ。ガイドには52番は往路と復路でバス停が違うということが書いてあったので、バス停のある(らしい)方向に…向かおうと思ったらそっち向きに歩いている人は皆無。それでもそのまま流れとは逆に少し歩いて行くと、警官隊(1ヶ所にいるのは数人だけど)が道路を封鎖している。今思えば、その辺りに席が設けられていたユヴェンティーノを先に帰らせる為の封鎖で、しばらくすれば解除されるものだったのかもしれないが、そこで待つことはせず、人波に乗って反対側から一周回ってバス停へ…と考えていたら、そっち側も8割方回り込んだ地点で封鎖されている罠。もう仕方がないので少し待ってみようと思って眺めていると、その奥では人がバス停の(あると思われる)方向に歩いているのが見えた。その上、そこの封鎖が解除されるのは最後だよ…みたいな感じで地元の人と警官が話していたので、さらにスタジアムを逆回りして最初の所から行こうと歩き始めた。…うん、書いていてもややこしい。
 その途中で、もう一つS.M.N駅へ向かうバス路線(17番)があったことを思い出し、ガイドで場所を確認すると、逆戻りする途中にあるバールの角を曲がって二つ目の通りにあると書いてあったので、そのバール「Marisa」の角を曲がる。そして一つ目…二つ目。目を凝らす。機影は確認出来ず。もしかしたらガイドは大きな通りだけを地図に載せて、細い通りは省略してるのかもしれないと思い、もう少し先へ進むと、車通りの多い通りに出くわした。(fig.26)けれどもそこにもバス停はなし。…本格的に迷うまで後少し、みたいな雨上がりのフィレンツェには似つかわしくない乾いた空気が流れ始める。それでもまあ本格的にダメだったらどこかお店で道を聞くかタクシー呼んでもらおう、と開き直って歩いていると、バス停を一つ発見。ちょっと路線は違うけど駅には行くみたいだから待ってみよう、と思ったけどバス停の張り紙に何か「試合後は混むから19時くらいまで通過します」みたいなこと(辞書を持ってなかったのであくまでニュアンスで)が書いてあったので、バスの進行(するはずの)方向へ向かって歩いていると、一際大きな通りに出る。そこで周りを見渡すと…あ、人が並んでるバス停発見。52番も17番も止まるって書いてありますよ先生。よかた。かえれる。…そして極めて平静を装いつつ、52番のバスにそそくさと乗り込んで帰還。
 駅前でバスを降りたときには本当に安心して、ジェラテリアで自分にご褒美を買いましたさ。メロン味。寒いけど美味い。さらに四日目にして米の飯が懐かしくなってしまったので、ホテルで一休みしたあと近所に見つけておいた中華料理屋「北京飯店」へ。鶏肉の炒飯が美味しかったです。四日目終わり。

*1:「三つの都の物語」中の『銀色のフィレンツェ』=単行本として出ていた「メディチ家殺人事件」のエピソード。

*2:熱狂的なサポーターが集まるゴール裏席。カーブしているからそう言われる。

*3:フィオレンティーナのチームカラーがスミレ色=ヴィオラなことからくる愛称。

*4:逆にユヴェントスののチームカラーは白と黒=ビアンコネロ