Giornata 5.

 五日目もやっぱり曇りときどき雨。…でも今日行くしかなくなってしまったので行きます。ピサに。
 いつものように朝食その他を済ませて9時頃にホテルを出発。S.M.N駅のインフォメーションで時刻表を確認すると、9時27分発リヴォルノ行きの列車がピサを通るとのことだったので、そのままそれに決定。切符は時刻表の横にあった自動発券機(fig.1)で購入。発券機は結構そこかしこにあって、英語が選べるので楽ちん。ただ、最初は各種割引を利用するかどうかの画面で「Full Price Ticket」の表示が目につかず少し焦った。手順を1からやり直したときに気付いたから良かったけど。
 そうやって列車の切符を買って、構内にある黄色の自動刻印機*1で日時を記録(fig.2)した後は、余った時間でホームとか列車の写真を撮ってみたり。…するとよく分かったのが、レッジョナーレ(地域線)の列車とユーロスターの差。デザインの新旧はともかくとして、車体外観に対する姿勢が明らかに違う。ピッカピカのユーロスター(fig.3)と、スプレーで落書きまでされているレッジョナーレ。(fig.4)せめて落書きはどうにかした方がいいと思わますが。…これから乗り込む列車が不憫なので。
 そうこうしているうちに出発時間も迫ってきたので、落書き23号(今命名した)に乗り込むために1番線へ。切符を買うときに二等車と2ユーロちょっとしか違わなかったので一等車にしたんだけど、自転車を乗せられる車両とか車体の広告とかをきょろきょろ眺めながら歩いていたので一等車の存在に気付かず、結局適当な二等車両へ。帰りはちゃんと一等車に乗ろう。
 乗り込んでまず気付いたこと。点け忘れなのかなんなのか、車内の照明が点いていない。いやまあ朝だからいいんだけどさ。座席は2対2、もしくは1対2で向かい合う対面座席で、リクライニングはなし。憐憫の情すら感じさせる車両の外見とは相反して、意外に普通の座り心地。悪くない。
 さて、ピサ中央駅まで1時間とちょっと、トスカーナの田園風景でも見ながら行きましょうかと思っていると、途中から外がものすごい雨に。窓も雨粒で埋め尽くされてしまったので何もすることがなくなり、うたた寝開始。でもその雨もピサに着く頃にはほぼ止んでたから良かった…って実は雨雲を追い越していただけだということに後で思い当たった訳だけども。まあとにかくピサに着いたので列車を降りた。(fig.5)
 ピサ中央駅(fig.6)から斜塔のあるドゥオモにはバスが出ているとガイドには書いてあるけど、せっかく来たのに街の中を歩かないのはもったいないと思い、ここでも徒歩で移動。とりあえずガイドブックの地図でだいたいの順路を確認し、駅前の広い通りをまっすぐ北に歩き始めると、その通りの端に「viale a. gramsci*2」(fig.7)と書いた標識があるのに気付いた。なんというか流石イタリア。そしてそのままヴィットーリオ・エマヌエーレ2世広場を抜け、クリスマスの準備が始まったメインストリート(fig.8)を通り過ぎると、そこでアルノ川にぶつかる。
 川を渡ると街の雰囲気は落ち着いた感じに変わり、ピサ大学の施設が目立つようになる。…と言っても日本の大学のみたいに塀で囲われたキャンパスがあって、その中は大学で外は外、という感じではなく、民家の隣だったりする街の中の建物が、そのまま校舎として使われている感じ。まあ大学の建物に囲まれた広場なんかもあって、そこら辺は大学っぽい。ピサ大学はガリレオ・ガリレイが学び、教えた大学として有名なんだけども、一番立派な建物は物理学科でも医学部(ここも名門)でもなく、法学部でした。(fig.9)Facolta di Guirsprudenza。…日本の某大学とは逆だな。ま、そこも医学部本館はぼろいけど。
 大学の建物の間を縫うような裏通り(fig.10)をうろうろしながら街を眺めてみると、大学の街らしく本屋、それも古本屋が目立つ。(fig.11)いい感じ。入口の開いていた建物にちょっと入ってみると、イタリアの大学もこっちと同じで「〜語教えます」とか「〜サークルやりましょう」とかコンサートのお知らせポスターなどなどが壁一面に貼ってあって少し和む。斜塔に行く前にカヴァリエーリ広場に寄って、ヴァザーリが手掛けたカヴァリエーリ宮(fig.12,13((かつてのサント・ステファノ騎士団本部))とかパラッツォ・デル・オロロージョ(時計の宮殿)(fig.14)を見てから、それっぽい方向へ進む虹色の傘(を差した人)の後ろをついて静かな街を歩く。(fig.15)
 そして突然視界に姿を現す斜塔。すげーまじでかたむいてるよ。(fig.16)
 驚いた…と思う間もなく、それまで小雨だった雨が傘が重くなるような豪雨に。しょぼい折り畳み傘しか持っていなかったので、近くにあったパラッツォの入口部分に緊急避難。(fig.17)追い越した雨雲が追いついて来たのかと思いつつ、しばしその場で空模様を見る。すると今度は雨雲の方が通り過ぎたのか10分ほどで小康状態になったので、斜塔にじりじりと接近。そして斜塔のそばのバールで雨宿りしていると、斜塔に上って来たらしい日本人のおじさんがやって来たので世間話を少々。おじさんによると、今の時期だけは当日予約(30分〜1時間後)で斜塔に上れるらしく、先に予約を済ませてからドゥオモの中とか回った方がいいよ、とのことだったので、お礼を言ってチケットセンターへ。すんなり30分後の予約が取れる。やっぱり少し寒いけどいい時期に来たらしい。
 おじさんのアドバイスの通り、予約してからドゥオモ(fig.18,19)や広場を回っていると、20分なんて案外すぐに経ってしまうもので、感覚的には待ち時間だとは感じずに斜塔下の集合場所へ(fig.20)5分前集合…と思ったら、係の人にカメラ以外荷物を預けてこいと言われてチケットセンター横のロッカーへ。素直なので傘も預けたら、案の定塔の頂上で雨が降ってきましたが。
 気を取り直して斜塔の中へ。行ったことのある人に聞くと、なぜか正反対の答えが返ってくることが多いんだけど、上りより下りの方が塔の傾きを感じた。個人的な解釈としては、上りは体全体が重力に逆らって上に行こうとしているので傾きも気にならないけど、下りはある程度重力に身を任せて勢いをつける癖があるので、階段をに沿って下りようとする意識の方向と重力に引かれるベクトルがズレて、下りの方が傾きを感じるんだと納得してたんだけど…まあいいか。ズレの方向が螺旋階段を回るうちに移り変わって面白かったし。
 斜塔の頂上から見る風景(fig.21)は、フィレンツェ中心部の込み合った感じとはまた少し違った良さを備えている。街の規模の小ささから来る余裕というかおおらかさというか。(fig.22)丘に囲まれた盆地にあるフィレンツェと、元々は河口だった開けた平地にあるピサという条件の違いもあるかもしれないけど。その元河口側の景色は中世の城壁の向こうに地平線(もしかしたら水平線かも)が見えて面白い。(fig.23)ちなみに塔の上からだと、明らかに視界を悪くする黒い水の固まりが接近してくるのが見えて、雨が来るのが分かる。しかし頂上部分は筒になっていて屋根がないので、傘を持ってこなかったうっかりさん達は壁に張り付いて雨粒をしのぐので精一杯。
 下山…ではなくて螺旋階段を下りて(fig.24)塔から出た途端に空にちょっとした晴れ間ができているのに気付いた。ほぼ最悪だった天候に一瞬現れたそれなりのシャッターチャンス。(fig.25)こうなってくると少しぐらい暗い方が、塔の石組みがよく見えていいような気すらしてくる。…気のせいだけどさ。
 昼食はドゥオモの前の通りに来ていたパニーノの移動販売で。パンとその間に挟まったハムの塩加減が期待以上に美味しかった気がする。…これも気のせいかも。むしろ達成感で満足してたし。その後は、ドゥオモのある広場((奇跡の広場(Piazza dei Miracoli)というらしい。確かに緑の芝生に白い建物が浮かび上がる光景は奇跡的かも。…晴れてたらね。))fig.26,27,28)の前にずらりと並んだ土産物屋をひやかしたり、塀越しに見えたピサ大学付属植物園(fig.29)の竹林に妙な感慨を覚えたりしながら、もう一度アルノ川を渡って(fig.30)だんだんと中央駅の方へ。いいなあ、ピサのこぢんまりした感じ。超が何個もつくくらいの有名観光地なのに、ドゥオモ周辺以外のところは「我関せず」とでも言うような自然さが漂っていた。(fig.31)
 ピサ中央駅に戻って来て時刻表をチェックすると、10分後の列車と35分後の列車があったので余裕を見て後の電車に乗ることにする。14時54分フィレンツェS.M.N駅行き。そして余った時間で駅の中をうろうろ。イタリアに来てから初めて見た食べ物・飲み物の自販機(Self Service Barというらしい)でファンタChinotto味(fig.32)を買ってみたり。…Chinottoというのは、帰ってから辞書を調べると柑橘類らしかったけど、正直言ってあまり……なお味。他には昨日のサッカーの結果が載っているLa Gazzeta dello Sportを売店で購入。そして今度はちゃんと一等車を見つけて乗車。

 Q. レッジョナーレの一等車と二等車の違いは何でしょう。
 A. 座席が若干広くてリクライニング出来る。窓がキレイ…なのは一等と二等の違いではないような気もする。あ、あと「窓からものを投げるなこんちくしょう」系の注意書きが伊英独仏4ヶ国語で。

 …これで2ユーロちょいの差か。確かにリクライニングは快適なんだけども往復分で4ユーロあったらピザが食えるとか考えたらいけませんか。そうですか。そんなこんなで帰りは窓越しに写真が撮れる環境だったので(fig.33)ちょこちょこ撮りつつ、16時ジャストくらいにフィレンツェに到着。(fig.34,35)駅構内をさらっと見てから一旦ホテルへ戻って、翌日の朝には帰ると言うのに一つも買っていないお土産を探しに行こうと思った。
 うん、思ったんですよ。ホテルの部屋で。でも食べ物系のお土産を売っている所をこれまで見たことがないんですが。…まあ、なんとかなるだろうと思ってそれらしい場所をさまよう。具体的にはイノシシの銅像が目印の新市場へ。出て来たときには自分用の手帳とピンズ2個が手の中に。いや、店じまい中に声を掛けたら割引してくれるかなーとか…そうそう、実験ですよ。実験。うまく行きました。
 肝心のお土産は…流石に買わないというわけにはいかないので、どうしようかと思ってガイドをパラパラめくっていると、ホテルから徒歩5分くらいの中央市場が朝7時から開いているという情報が。これはもう行くしかないでしょう。ホテルは9時くらいにチェックアウトすれば大丈夫でしょ。…多分。
 という感じで五日目をシャットダウン。

*1:イタリアの駅には改札がないので、完全予約制のユーロスター以外は切符に乗車日時を刻印する必要がある。切符自体は2ヶ月間有効

*2:アントニオ・グラムシ:イタリアのマルクス主義思想家。ファシスト政権に投獄された中で権力に関する優れた思索を書き残した。獄中ノート。